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光と闇の再戦04 [女神転生]
バスに乗り、W大のゼミ室に入ると、水木先生はパソコンのモニターを凝視しながら考え込んでいた。
「水木先生、こんにちは。面談よろしくお願いします。」
「ああ、ルイ君か。待っていたよ。面談の前にこれを見てごらん。」
パソコンのモニターを見ると何かマニュアルのようなものが表示されている。
ーーーーーーーーーー
タイトル:悪魔召喚プログラム「マニュアル」
「悪魔召喚プログラム」を受け取った人へ。
今回は、「オートマッピング」機能を提供する。
自分が歩いたエリアがデータとして記録される。
Xキーで表示することができる。活用してもらいたい。
「次のプログラム」がまだできていない。
もう少し時間をいただきたい。
悪魔召喚プログラム・マニュアルを送信する。
各自、使い方を憶えてほしい。
「悪魔召喚プログラム・マニュアル」
このソフトウェアは以下のことができます。
一 悪魔と交渉して仲魔にすること。
二 仲魔となった悪魔を呼び出すこと
三 悪魔と遭遇した際に、人間と会話するように悪魔たちとも会話をすることが可能です。
また、他にも様々な機能をアドオンできます。
その際は制作者の指示にしたがって・・・
ーーーーーーーーーー
「何ですか?これは。」
「ああ、今朝パソコンのメールで送られてきたメッセージに添付されていたものだよ。このテキストファイルとは別に、悪魔召喚プログラムという実行ファイルも添付されていてね。びっくりしたよ。ちょっと見てくれたまえ。」
水木先生は、悪魔召喚プログラムを立ち上げた。黒っぽい背景画面にサモン、リターン、デリート、ステータス、アナライズの五つのメニューが表示されている。
水木先生は、召喚のメニューを選択し表示されたリストの中から、妖精ピクシーを選択し、決定ボタンを押した。
ピロロロリ・・・パソコンが電子音をならすと同時に、目の前に羽が生えた小さな少女が浮かび上がった。
「え?これって、ホログラムかなんかですか?」
「いや、妖精ピクシーを悪魔召喚プログラムで実体化させたんだよ。妖精ピクシーについては、春の講義で少し触れたが覚えているかね?」
「ああ、はい。たしか、イングランドのコーンウォール地方に民間伝承されている妖精ですよね。」
ルイは、セカンドバックからバインダーを取り出すと講義でもらった資料を開いた。
ーーーーーーーーーー
【悪魔メモ:妖精ピクシー】
イングランドのコーンウォール地方に民間伝承される妖精の一種である。身長二十センチメートルほどの小人で、赤い髪の毛、上に反った鼻をしている。
闇でも光る目、青白い顔、尖った耳、緑色の服を着、先の尖ったナイトキャップをかぶっていることが多い。
怠け者を見つけるとつねったりポルターガイスト現象を起こして懲らしめる。また一晩中輪を描いて馬を乗り回しガリトラップと呼ばれる妖精の輪を作ることもある。
古代の塚やストーンサークル、洞窟などに住み、夜になると森の中でダンスすると言う。彼らの踊りにでくわした旅人は皆一緒に踊らされ時間の観念をなくしてしまうと言う。そうならないための妖精よけの方法は上着を裏返しに着ることである。また旅人を惑わせ迷わせくたくたに疲れさせるいたずらも行う。
また人間の子供を盗んだり、取り替え子(チェンジリング)を行うと言う。そうならないためヴィクトリア朝時代までさらわれぬ様に赤ん坊をベビーベッドにくくりつける風習の地方もあったと言う。
洗礼を受けずに死んだ子供の魂が化身した存在だといわれており、直接人目につく場所には出て来ないが、人間と様々な点で共生関係にある存在である。自身に恵みを与えた者には正しく報いるという。基本的には人間に悪戯をするのが好きだが、人間には好意的な悪魔である。
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「水木先生、こんにちは。面談よろしくお願いします。」
「ああ、ルイ君か。待っていたよ。面談の前にこれを見てごらん。」
パソコンのモニターを見ると何かマニュアルのようなものが表示されている。
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タイトル:悪魔召喚プログラム「マニュアル」
「悪魔召喚プログラム」を受け取った人へ。
今回は、「オートマッピング」機能を提供する。
自分が歩いたエリアがデータとして記録される。
Xキーで表示することができる。活用してもらいたい。
「次のプログラム」がまだできていない。
もう少し時間をいただきたい。
悪魔召喚プログラム・マニュアルを送信する。
各自、使い方を憶えてほしい。
「悪魔召喚プログラム・マニュアル」
このソフトウェアは以下のことができます。
一 悪魔と交渉して仲魔にすること。
二 仲魔となった悪魔を呼び出すこと
三 悪魔と遭遇した際に、人間と会話するように悪魔たちとも会話をすることが可能です。
また、他にも様々な機能をアドオンできます。
その際は制作者の指示にしたがって・・・
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「何ですか?これは。」
「ああ、今朝パソコンのメールで送られてきたメッセージに添付されていたものだよ。このテキストファイルとは別に、悪魔召喚プログラムという実行ファイルも添付されていてね。びっくりしたよ。ちょっと見てくれたまえ。」
水木先生は、悪魔召喚プログラムを立ち上げた。黒っぽい背景画面にサモン、リターン、デリート、ステータス、アナライズの五つのメニューが表示されている。
水木先生は、召喚のメニューを選択し表示されたリストの中から、妖精ピクシーを選択し、決定ボタンを押した。
ピロロロリ・・・パソコンが電子音をならすと同時に、目の前に羽が生えた小さな少女が浮かび上がった。
「え?これって、ホログラムかなんかですか?」
「いや、妖精ピクシーを悪魔召喚プログラムで実体化させたんだよ。妖精ピクシーについては、春の講義で少し触れたが覚えているかね?」
「ああ、はい。たしか、イングランドのコーンウォール地方に民間伝承されている妖精ですよね。」
ルイは、セカンドバックからバインダーを取り出すと講義でもらった資料を開いた。
ーーーーーーーーーー
【悪魔メモ:妖精ピクシー】
イングランドのコーンウォール地方に民間伝承される妖精の一種である。身長二十センチメートルほどの小人で、赤い髪の毛、上に反った鼻をしている。
闇でも光る目、青白い顔、尖った耳、緑色の服を着、先の尖ったナイトキャップをかぶっていることが多い。
怠け者を見つけるとつねったりポルターガイスト現象を起こして懲らしめる。また一晩中輪を描いて馬を乗り回しガリトラップと呼ばれる妖精の輪を作ることもある。
古代の塚やストーンサークル、洞窟などに住み、夜になると森の中でダンスすると言う。彼らの踊りにでくわした旅人は皆一緒に踊らされ時間の観念をなくしてしまうと言う。そうならないための妖精よけの方法は上着を裏返しに着ることである。また旅人を惑わせ迷わせくたくたに疲れさせるいたずらも行う。
また人間の子供を盗んだり、取り替え子(チェンジリング)を行うと言う。そうならないためヴィクトリア朝時代までさらわれぬ様に赤ん坊をベビーベッドにくくりつける風習の地方もあったと言う。
洗礼を受けずに死んだ子供の魂が化身した存在だといわれており、直接人目につく場所には出て来ないが、人間と様々な点で共生関係にある存在である。自身に恵みを与えた者には正しく報いるという。基本的には人間に悪戯をするのが好きだが、人間には好意的な悪魔である。
ーーーーーーーーーー
「私もピクシーについて現地で調査したときは、実際に出会うことができなかったが、このプログラムを使えば登録されている悪魔は一定条件のもと、呼び出すことができるようだ。」
「一定条件とは?」
「この世界で使われている一般通貨があれば呼び出せる。そして、マグネタイトと呼ばれる生体物質がピクシーを現世界に実体化させたまま維持するのに必要な量だけ必要ということだ。ただ、マグネタイトはリアルタイムで消費されていき、無くなった瞬間ピクシーは強制送還されるということになる。」
「生体物質は、悪魔召喚の講義で教えてもらいましたので、少し理解できます。確か、二酸化炭素や水などの分子を電気分解や合成で整えていくんですよね。もともと人間が持っている生体エネルギーを注入することも可能だとか。」
「そうだね。ピクシーくらいなら健康な人間が一人いれば、献血で血液を四百ミリリットル採血するくらいの感覚で、自身の生体エネルギーを抽出すれば、比較的簡単にピクシーを現世界に維持することは可能だろう。」
「一つ疑問があるんですが、なぜ通貨が必要なんですか?」
「いい質問だ。物質的に見れば、通貨は特定の金属や紙でできた、ただの”もの”だが、これが経済活動で交換され始めると人々の希望や欲、恨みや悲しみなど様々な感情が込められた物になる。つまり、人間の残留思念と呼ばれるエネルギーが通貨には込められているということだ。これが、悪魔召喚のエネルギーに使われることになる。だから、歴史の浅い新興国の通貨よりも長い歴史を重ねたドルやポンド、マルク、フランなどが価値が高い。長く使われた通貨ほど悲喜交々、人間の様々な残留思念をため込んでいるからね。もちろん日本の通貨である円もすばらしい通貨だ。」
「なるほど、通貨をそういう視点で見たことはありませんでした。」
「昔から行われてきた悪魔召喚の儀式では、人間の残留思念にしても、生体エネルギーにしても集めて召喚する悪魔に注入するのは特殊な技能と経験が必要だったが、この悪魔召喚プログラムはそれらの作業を最適化されたプログラムがコントロールしている。つまり、パソコンが操作できれば誰でも悪魔を召喚できるということになるな。」
「大魔王アスタロトとかベルゼブブでも呼び出せるんですか?」
「原理としては可能だろうね。しかし、ピクシーとは比較にならないエネルギーが必要だろうから、自身の生体エネルギーを使っていたら即死だろうね。先ほどの献血でいうなら、体全体の血液を抜き取っても足りないということだ。だから、何らかの方法で生体エネルギーであるマグネタイトを合成するか収集するかして、それらを蓄積保存することが必要だろう。幸い、悪魔召喚プログラムはそのマグネタイトをデータ化してハードディスクに保存できるようだから、大容量のマグネタイトを集められれば、理論上は大魔王でも召喚したまま維持できる。」
「なんか、これはすごいプログラムですね。」
「まあ、儀式的悪魔召喚でも召喚者のレベルで高位の悪魔を使いこなせるか、それとも呼び出した悪魔に取り込まれるか決まってしまう。悪魔召喚プログラムは、あくまでも召喚の手順を簡略化しただけで、悪魔との交渉術や適正な悪魔召喚環境の管理など、レベルに見合った力量を持たないまま高位の悪魔を呼び出すのは危険な行為だ。悪魔召喚プログラムには、そのへんのリミッターも付属しているようだから、このプログラムを使っている限りは、自分の力量を超えた悪魔は呼び出せないようだ。」
「なるほど、何事も学習と経験が必要だということですね。」
「そういうことだ。」
「ところで、水木先生。このところ、僕の周りに不可思議なことが起きています。」
「一定条件とは?」
「この世界で使われている一般通貨があれば呼び出せる。そして、マグネタイトと呼ばれる生体物質がピクシーを現世界に実体化させたまま維持するのに必要な量だけ必要ということだ。ただ、マグネタイトはリアルタイムで消費されていき、無くなった瞬間ピクシーは強制送還されるということになる。」
「生体物質は、悪魔召喚の講義で教えてもらいましたので、少し理解できます。確か、二酸化炭素や水などの分子を電気分解や合成で整えていくんですよね。もともと人間が持っている生体エネルギーを注入することも可能だとか。」
「そうだね。ピクシーくらいなら健康な人間が一人いれば、献血で血液を四百ミリリットル採血するくらいの感覚で、自身の生体エネルギーを抽出すれば、比較的簡単にピクシーを現世界に維持することは可能だろう。」
「一つ疑問があるんですが、なぜ通貨が必要なんですか?」
「いい質問だ。物質的に見れば、通貨は特定の金属や紙でできた、ただの”もの”だが、これが経済活動で交換され始めると人々の希望や欲、恨みや悲しみなど様々な感情が込められた物になる。つまり、人間の残留思念と呼ばれるエネルギーが通貨には込められているということだ。これが、悪魔召喚のエネルギーに使われることになる。だから、歴史の浅い新興国の通貨よりも長い歴史を重ねたドルやポンド、マルク、フランなどが価値が高い。長く使われた通貨ほど悲喜交々、人間の様々な残留思念をため込んでいるからね。もちろん日本の通貨である円もすばらしい通貨だ。」
「なるほど、通貨をそういう視点で見たことはありませんでした。」
「昔から行われてきた悪魔召喚の儀式では、人間の残留思念にしても、生体エネルギーにしても集めて召喚する悪魔に注入するのは特殊な技能と経験が必要だったが、この悪魔召喚プログラムはそれらの作業を最適化されたプログラムがコントロールしている。つまり、パソコンが操作できれば誰でも悪魔を召喚できるということになるな。」
「大魔王アスタロトとかベルゼブブでも呼び出せるんですか?」
「原理としては可能だろうね。しかし、ピクシーとは比較にならないエネルギーが必要だろうから、自身の生体エネルギーを使っていたら即死だろうね。先ほどの献血でいうなら、体全体の血液を抜き取っても足りないということだ。だから、何らかの方法で生体エネルギーであるマグネタイトを合成するか収集するかして、それらを蓄積保存することが必要だろう。幸い、悪魔召喚プログラムはそのマグネタイトをデータ化してハードディスクに保存できるようだから、大容量のマグネタイトを集められれば、理論上は大魔王でも召喚したまま維持できる。」
「なんか、これはすごいプログラムですね。」
「まあ、儀式的悪魔召喚でも召喚者のレベルで高位の悪魔を使いこなせるか、それとも呼び出した悪魔に取り込まれるか決まってしまう。悪魔召喚プログラムは、あくまでも召喚の手順を簡略化しただけで、悪魔との交渉術や適正な悪魔召喚環境の管理など、レベルに見合った力量を持たないまま高位の悪魔を呼び出すのは危険な行為だ。悪魔召喚プログラムには、そのへんのリミッターも付属しているようだから、このプログラムを使っている限りは、自分の力量を超えた悪魔は呼び出せないようだ。」
「なるほど、何事も学習と経験が必要だということですね。」
「そういうことだ。」
「ところで、水木先生。このところ、僕の周りに不可思議なことが起きています。」
ルイは、不思議な夢の話、現実世界での不思議な人物との邂逅、ゾンビの出現などを水木に説明した。
時折メモを取りながら、ルイの話に耳を傾けていた水木は、一通りの話を聞くと記憶の底をたどるように思案していた。そして、自分なりに導き出した一定の仮説をルイに伝えた。
「まず、夢の話は何者かが君に思念を送っているとみていい。最も可能性が高いのは、君と深く関与したがっているユリコという女性だ。ゾンビを簡単に撃退したところを見ても、彼女がただの人間だとは考えにくい。泉で自らの水浴びの夢を見せた意図は誘惑だろう。人間の思念の奥底には様々な欲望がある。それを巧みにコントロールして、君の感情を操ろうとしているのではないか。少女とゾンビの事件で助けられた件も仕組まれた可能性も否定できない。悪魔が人間を魅了するときの常套手段だな。」
「ということは、彼女は悪魔?」
「そうだな。考えられるのは、夢の中で男性を誘惑するサキュバス、もしくはもっと高位の悪魔かもしれない。」
「サキュバス・・・ですか。わかりました。少し調べてみます。」
「あと、老人の正体はまだ仮定もできない段階だから、コメントは控えるよ。全く心当たりがないわけでもないんだがね。そろそろ、時間だな。今日はここまでにしておこうか。君は、向学心旺盛だからこの悪魔召喚プログラムをコピーして渡しておくよ。持っているポータブルコンピュータにインストールしておくといい。」
「ありがとうございます。こちらの方も研究してみます。」
「一つ忠告しておく。」
「何でしょうか?」
「まだ、実感は無いと思うが、悪魔召喚プログラムは恐らくレバリッジ、つまりてこの原理を使って本来の悪魔の力をかなり弱めて呼び出している。恐らく悪魔が本来持っている力を一万分の一以下に抑えているはずだ。仮実体化とでも呼べば良いだろうか。だから、悪魔を維持するコストも少なくてすみ、呼び出された悪魔は召喚者に従順だ。なぜならば、現世界に維持するコストをカットされれば、強制送還になるからだ。しかし、召喚の儀式などで呼び出され、正式に実体化した悪魔の力は本来の力だ。レバリッジで弱められていない。夢の中でドウマンに焼き殺されたと言っていたな。恐らくドウマンも古の陰陽師が悪魔化して現世に実体化したものだ。自分の力をフルに使える悪魔の力を侮ってはいけない。つまり悪魔召喚プログラムで呼び出された悪魔と完全実体化した悪魔とを同列に見てはいけないということだ。そんな場面に出会ったら十分注意して行動した方がよい。」
「わかりました。」
「まあ、一ミリグラムと一マイクログラムの違いは持ってみてもあまり感じないだろう?レベルの低いピクシークラスの悪魔では、違いがあるからといってコントロールできないレベルの違いではない。そう影響は無いと思う。しかし、一グラムと一トンは大きな違いだ。これはコントロールできる範囲を超えている。そういう意味で言えば、高位の悪魔ほど注意すべきだな。」
「ありがとうございました。また、いろいろ相談することもあると思いますのでよろしくお願いします。」
「ああ、気を付けて帰りたまえ。」
時折メモを取りながら、ルイの話に耳を傾けていた水木は、一通りの話を聞くと記憶の底をたどるように思案していた。そして、自分なりに導き出した一定の仮説をルイに伝えた。
「まず、夢の話は何者かが君に思念を送っているとみていい。最も可能性が高いのは、君と深く関与したがっているユリコという女性だ。ゾンビを簡単に撃退したところを見ても、彼女がただの人間だとは考えにくい。泉で自らの水浴びの夢を見せた意図は誘惑だろう。人間の思念の奥底には様々な欲望がある。それを巧みにコントロールして、君の感情を操ろうとしているのではないか。少女とゾンビの事件で助けられた件も仕組まれた可能性も否定できない。悪魔が人間を魅了するときの常套手段だな。」
「ということは、彼女は悪魔?」
「そうだな。考えられるのは、夢の中で男性を誘惑するサキュバス、もしくはもっと高位の悪魔かもしれない。」
「サキュバス・・・ですか。わかりました。少し調べてみます。」
「あと、老人の正体はまだ仮定もできない段階だから、コメントは控えるよ。全く心当たりがないわけでもないんだがね。そろそろ、時間だな。今日はここまでにしておこうか。君は、向学心旺盛だからこの悪魔召喚プログラムをコピーして渡しておくよ。持っているポータブルコンピュータにインストールしておくといい。」
「ありがとうございます。こちらの方も研究してみます。」
「一つ忠告しておく。」
「何でしょうか?」
「まだ、実感は無いと思うが、悪魔召喚プログラムは恐らくレバリッジ、つまりてこの原理を使って本来の悪魔の力をかなり弱めて呼び出している。恐らく悪魔が本来持っている力を一万分の一以下に抑えているはずだ。仮実体化とでも呼べば良いだろうか。だから、悪魔を維持するコストも少なくてすみ、呼び出された悪魔は召喚者に従順だ。なぜならば、現世界に維持するコストをカットされれば、強制送還になるからだ。しかし、召喚の儀式などで呼び出され、正式に実体化した悪魔の力は本来の力だ。レバリッジで弱められていない。夢の中でドウマンに焼き殺されたと言っていたな。恐らくドウマンも古の陰陽師が悪魔化して現世に実体化したものだ。自分の力をフルに使える悪魔の力を侮ってはいけない。つまり悪魔召喚プログラムで呼び出された悪魔と完全実体化した悪魔とを同列に見てはいけないということだ。そんな場面に出会ったら十分注意して行動した方がよい。」
「わかりました。」
「まあ、一ミリグラムと一マイクログラムの違いは持ってみてもあまり感じないだろう?レベルの低いピクシークラスの悪魔では、違いがあるからといってコントロールできないレベルの違いではない。そう影響は無いと思う。しかし、一グラムと一トンは大きな違いだ。これはコントロールできる範囲を超えている。そういう意味で言えば、高位の悪魔ほど注意すべきだな。」
「ありがとうございました。また、いろいろ相談することもあると思いますのでよろしくお願いします。」
「ああ、気を付けて帰りたまえ。」
ゼミ室を後にすると大学の構内はすでに薄暗く、あちこちに照明がともっていた。悪魔のことについて水木先生と話しているときは、特に時間の経過が早いように感じる。
起きている出来事については、水木先生にいくつかの示唆を頂いた。まだ、ギリギリ大学の図書館は開いているようだから、サキュバスに関する参考文献だけは借りていくことにした。
(ユリコ・・・いったい何者なんだろうか?)
気にしている時点で彼女の誘惑は成功しているのかもしれない。まずは、現状を正しく理解して判断を誤らないようにしなければ。
自宅に帰ったルイは、図書館で借りた文献をもとにサキュバスについてまとめてみる。
ーーーーーーーーーー
【悪魔メモ:夜魔サキュバス】
サキュバスは、女性のリリン・デーモン、または通常は性行為を通じて男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れる民間伝承における超自然的存在。
キリスト教の教義ではサキュバスは悪魔扱いで、後に夢の中に出現せずに肉体を持った状態で登場することが多くなった。その肉体的な正体に関しては、悪魔であるので「死体を利用して憑依している」「魔的な方法でセックス用の肉体を構築している」「やはり霊体であり、性交時の肉体だと思っているのは幻覚である」との説がある。
宗教的な伝承においては、サキュバスとの繰り返しの性行為は健康や精神状態の悪化、あるいは死をももたらすと考えられている。現代の表現ではしばしば非常に魅力的な誘惑者または魅惑的女性として描写される。サキュバスの容姿に関しては魅力的で美しい女性であると言われるが、これは「幻影や魅了でそう思わせているだけで、実体は醜い」との説もある。
ーーーーーーーーーー
いくつか今回の現象に当てはまるところもあるようだ。ユリコの容姿は魅惑的であるし、最初は夢の中で出会ったが最近では実体化している姿ばかりに出会う。しかし、ユリコの目的は誘惑だけでなく、もっと別の目的もあるように思う。
ルイはここまでまとめるとベッドに転がり込み、いつの間にか眠りについていた。
夏の夜は完全な漆黒ではなく、遠く西の空はまだ赤茶けた色を残していたが、それもやがて闇に飲み込まれていく。まるで流した血が地面に吸い込まれ、土と同化していくように。
起きている出来事については、水木先生にいくつかの示唆を頂いた。まだ、ギリギリ大学の図書館は開いているようだから、サキュバスに関する参考文献だけは借りていくことにした。
(ユリコ・・・いったい何者なんだろうか?)
気にしている時点で彼女の誘惑は成功しているのかもしれない。まずは、現状を正しく理解して判断を誤らないようにしなければ。
自宅に帰ったルイは、図書館で借りた文献をもとにサキュバスについてまとめてみる。
ーーーーーーーーーー
【悪魔メモ:夜魔サキュバス】
サキュバスは、女性のリリン・デーモン、または通常は性行為を通じて男性を誘惑するために、女性の形で夢の中に現れる民間伝承における超自然的存在。
キリスト教の教義ではサキュバスは悪魔扱いで、後に夢の中に出現せずに肉体を持った状態で登場することが多くなった。その肉体的な正体に関しては、悪魔であるので「死体を利用して憑依している」「魔的な方法でセックス用の肉体を構築している」「やはり霊体であり、性交時の肉体だと思っているのは幻覚である」との説がある。
宗教的な伝承においては、サキュバスとの繰り返しの性行為は健康や精神状態の悪化、あるいは死をももたらすと考えられている。現代の表現ではしばしば非常に魅力的な誘惑者または魅惑的女性として描写される。サキュバスの容姿に関しては魅力的で美しい女性であると言われるが、これは「幻影や魅了でそう思わせているだけで、実体は醜い」との説もある。
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いくつか今回の現象に当てはまるところもあるようだ。ユリコの容姿は魅惑的であるし、最初は夢の中で出会ったが最近では実体化している姿ばかりに出会う。しかし、ユリコの目的は誘惑だけでなく、もっと別の目的もあるように思う。
ルイはここまでまとめるとベッドに転がり込み、いつの間にか眠りについていた。
夏の夜は完全な漆黒ではなく、遠く西の空はまだ赤茶けた色を残していたが、それもやがて闇に飲み込まれていく。まるで流した血が地面に吸い込まれ、土と同化していくように。
光と闇の再戦03 [女神転生]
吉祥寺のアーケードは大学からはバスで二十分ほど。そこそこ人も多く賑わっている所だ。行きつけのカフェもアーケードの中にある。
早速中へ入り、注文したカフェラテを受け取るといつもの一番奥の咳に腰かけた。ふと、前方に視線を向けるとこちらをじっと見つめている女性がいる。周りには誰もいないし、僕のことか?いや、気のせいかもしれない。
「また会ったわね、ルイ。こんなところで会えるなんて夢みたいね。ウフフフ・・・」
気のせいではなかった。こちらを見ていた女性は、あの夢の中で泉にいたあの人だ。
「あの夢の人?なぜ、僕が見た夢のことを知っているんですか?」
「あの夢は偶然じゃないわ。いま迫ってきてる危機への暗示なのよ。この世界に悪魔が降臨し、人間たちを襲い始めるわ。そして、この世界を救うためにあなたと私は結ばれるのよ・・・そんな怪訝そうな顔をしないで。じきにわかるわ。じゃあ、また会いましょう。」
ユリコは颯爽と席を立つと支払いを済ませ、町の雑踏の中へ消えていった。
不思議な感覚を抱いたままカフェラテを飲み干すと席を立ち、カフェの精算で千円をマスターに渡した。
「おつりが六百五十円だね。おや?五百円玉が不足してるな。百円玉が多くなって申し訳ないね。ああそういえば浮浪者みたいな老人が君を探していたよ。あんな人と関わりがあるのかい?まだ井の頭公園あたりにいるんじゃないか。どうする?行ってみるかい?」
マスターはレジを整理しながら、七枚の百円玉を僕に手渡した。
「常連さんだし、五百円玉が無い分五十円サービスするよ。気を付けてな。」
「ありがとうございます。また来ます。」
少しだけ得した気分でカフェを後にした。
(さて、どうするか?)
夕方、水木教授との個人面談にはまだまだ時間がある。カフェを後にすると、僕の足は自然と井の頭公園へと向かっていた。マスターが教えてくれたその老人が何か大切なことを知っているようにしか思えないのだ。何だか薄気味悪くもあるが、とにかく行ってみることにした。
早速中へ入り、注文したカフェラテを受け取るといつもの一番奥の咳に腰かけた。ふと、前方に視線を向けるとこちらをじっと見つめている女性がいる。周りには誰もいないし、僕のことか?いや、気のせいかもしれない。
「また会ったわね、ルイ。こんなところで会えるなんて夢みたいね。ウフフフ・・・」
気のせいではなかった。こちらを見ていた女性は、あの夢の中で泉にいたあの人だ。
「あの夢の人?なぜ、僕が見た夢のことを知っているんですか?」
「あの夢は偶然じゃないわ。いま迫ってきてる危機への暗示なのよ。この世界に悪魔が降臨し、人間たちを襲い始めるわ。そして、この世界を救うためにあなたと私は結ばれるのよ・・・そんな怪訝そうな顔をしないで。じきにわかるわ。じゃあ、また会いましょう。」
ユリコは颯爽と席を立つと支払いを済ませ、町の雑踏の中へ消えていった。
不思議な感覚を抱いたままカフェラテを飲み干すと席を立ち、カフェの精算で千円をマスターに渡した。
「おつりが六百五十円だね。おや?五百円玉が不足してるな。百円玉が多くなって申し訳ないね。ああそういえば浮浪者みたいな老人が君を探していたよ。あんな人と関わりがあるのかい?まだ井の頭公園あたりにいるんじゃないか。どうする?行ってみるかい?」
マスターはレジを整理しながら、七枚の百円玉を僕に手渡した。
「常連さんだし、五百円玉が無い分五十円サービスするよ。気を付けてな。」
「ありがとうございます。また来ます。」
少しだけ得した気分でカフェを後にした。
(さて、どうするか?)
夕方、水木教授との個人面談にはまだまだ時間がある。カフェを後にすると、僕の足は自然と井の頭公園へと向かっていた。マスターが教えてくれたその老人が何か大切なことを知っているようにしか思えないのだ。何だか薄気味悪くもあるが、とにかく行ってみることにした。
井の頭公園は、アーケードから南に進んだ森に囲まれた公園だ。江戸時代から湧水で有名な公園だ。ただ、平成四年、この公園ではバラバラ殺人事件が起こっている。被害者は公園の近くに住む一級建築士の男性だった。見つかった遺体は、血液が一滴残らず抜き取られ、被害者の頭部、胴体の大部分は今でも発見されていない。事件については、怨恨説の他、遺体の異常性から宗教団体の関与説などが囁かれたたが、現在でも未解決のままである。遺体の処分はともかく、血液を一滴残らず抜き取るなんて、医学的にはかなり難しいはずだ。吸血鬼にでも血を吸われたのか・・・・そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか井の頭公園の入口に到着していた。
公園の入口に到着するとカフェで聞いた話の通り奇妙な老人が道の中央に蹲踞の姿勢で立ちはだかっている。
「お前が神川ルイか・・・なるほど・・・大いなる力を使いこなせるかもしれんな。」
「僕のことを知っているんですか?」
「誰もが今、神川ルイ、そなたに注目しておる。ワシを含め、様々なものがいろんな意図を持って、そなたに接近してくることだろう。よいか、神川ルイ。今まさに世界のバランスが崩れようとしておる。”光と闇””法と混沌”、この拮抗によって保たれてきた調和が傾き始めているのじゃ。」
「いろんな立場の者?あなたは、どんな立場でどんな意図を持って、僕に関わってきているんですか?」
「ワシはこれから起きることの先触れをそなたに伝えに来た。どちらかというと世界のバランスの中間に位置する立場じゃ。今後は、”光と闇””法と混沌”のいずれかに世界は大きく傾くであろう。そのいずれに傾こうと結果は同じじゃ。・・・お前ならどうする?お前の行動1つで大きくバランスが傾く。だからこそ、いろんな立場の者が注目しているのじゃ。いずれにせよ、もう引き返すことはできぬ。とりあえずお前の力を見せてもらおうか。」
老人の姿がかすみ、僕の意識も一瞬遠のいた。
公園の入口に到着するとカフェで聞いた話の通り奇妙な老人が道の中央に蹲踞の姿勢で立ちはだかっている。
「お前が神川ルイか・・・なるほど・・・大いなる力を使いこなせるかもしれんな。」
「僕のことを知っているんですか?」
「誰もが今、神川ルイ、そなたに注目しておる。ワシを含め、様々なものがいろんな意図を持って、そなたに接近してくることだろう。よいか、神川ルイ。今まさに世界のバランスが崩れようとしておる。”光と闇””法と混沌”、この拮抗によって保たれてきた調和が傾き始めているのじゃ。」
「いろんな立場の者?あなたは、どんな立場でどんな意図を持って、僕に関わってきているんですか?」
「ワシはこれから起きることの先触れをそなたに伝えに来た。どちらかというと世界のバランスの中間に位置する立場じゃ。今後は、”光と闇””法と混沌”のいずれかに世界は大きく傾くであろう。そのいずれに傾こうと結果は同じじゃ。・・・お前ならどうする?お前の行動1つで大きくバランスが傾く。だからこそ、いろんな立場の者が注目しているのじゃ。いずれにせよ、もう引き返すことはできぬ。とりあえずお前の力を見せてもらおうか。」
老人の姿がかすみ、僕の意識も一瞬遠のいた。
「今度は何があるんでしょう?」
「マジかよ。昼間から夢見るなんて・・・」
ヒカルとタケルの声で意識が戻ると、灰色の壁に覆われた通路の中にいた。いや通路というより迷路と言った方がいいかもしれない。辺りを見渡しても出口らしきものは見当たらない。三人は壁伝いに手探りで、位置を確認しながら慎重に前へ前へと進んでいった。なぜか、ヒカルとタケルは体が薄く透けて見える。まるで実態のない幽霊のようだ。そのことを二人に伝えると僕の姿も同じように見えるという。このことから考えるとこの夢の世界は実体のない不思議な精神世界なのかもしれない。
迷路のような通路は、一本道で行き止まりにぶつかると上りの階段があり、ひたすら上へ上へと上っていくことになる。四階ほど上っただろうか。遠くに人影が見える。近づいてみるとそれは母だった。
「ダメよ!ルイ!この先は危険なの!みんなもやめて!止めても無駄なのはわかってるの・・・でも・・・あなたがいなくなったら・・・私はどうすればいいの・・・お願いよ、ルイ・・・行かないで・・・」
母の声は届いたが、歩みを止めることはできなかった。
突き当たりのドアを開けるとそこは、赤い鳥居の祭壇がある部屋だった。一人の白衣姿の男が神社の祭壇に何か祈りの言葉を捧げている。
「我が同胞よ!今こそ魔界より来たれ!」
両端では二名の神主が盛んに大幣(おおぬさ)を振り祝詞をあげている。
その時、男が僕らに気付いて振り向いた。頭頂部は禿げ、耳の上に白髪が少し残ったその男は眼鏡越しに鋭い視線をよこした。
「むむっ!いったい何の用でここに足を踏み入れた?・・・貴様ら何者かに操られているな?何者だ?誰に連れてこられた?」
立て続けに質問を浴びせかける間にも、神主の祝詞は低く長く唱え続けられている。
「・・・口も利けぬか・・・まぁいい。いずれにしても儀式を見られたからには生かしては帰さん。」
男の姿が幻のように揺れる実体が薄くなると再び姿を現し始めた。その姿は、赤と白の二色の襟がついた緑色のマントの下に朱に染まった禍々しい色の衣を羽織っている。両手に六枚の護符を携え、僕らを鋭い視線で射貫く。黒眼は完全にひっくり返り、浅黒い肌に白目だけが妖しく輝いている。
「我はドウマン、陰陽師の力を見せてやろう。お前らごとき灰にしてやる。覚悟しろ!」
(ドウマン・・・。芦屋道満か・・・。あの有名な陰陽師”安倍晴明”の宿敵の・・・)
何が起こっているのか全く分からないが、目の前のドウマンからは激しい憎悪の感情をぶつけられている。何とか弁解しようと試みたが、すでに話ができるような状態ではない。
「マハラギ!」
ドウマンの口から何らかの呪が唱えられると僕らの体は激しい炎に包まれた。
(実体のない精神世界のはずなのになぜ・・・?)
そう思う間もなく、あっという間に全身を焼かれ、激しい苦痛とともに意識が途絶えた。
「マジかよ。昼間から夢見るなんて・・・」
ヒカルとタケルの声で意識が戻ると、灰色の壁に覆われた通路の中にいた。いや通路というより迷路と言った方がいいかもしれない。辺りを見渡しても出口らしきものは見当たらない。三人は壁伝いに手探りで、位置を確認しながら慎重に前へ前へと進んでいった。なぜか、ヒカルとタケルは体が薄く透けて見える。まるで実態のない幽霊のようだ。そのことを二人に伝えると僕の姿も同じように見えるという。このことから考えるとこの夢の世界は実体のない不思議な精神世界なのかもしれない。
迷路のような通路は、一本道で行き止まりにぶつかると上りの階段があり、ひたすら上へ上へと上っていくことになる。四階ほど上っただろうか。遠くに人影が見える。近づいてみるとそれは母だった。
「ダメよ!ルイ!この先は危険なの!みんなもやめて!止めても無駄なのはわかってるの・・・でも・・・あなたがいなくなったら・・・私はどうすればいいの・・・お願いよ、ルイ・・・行かないで・・・」
母の声は届いたが、歩みを止めることはできなかった。
突き当たりのドアを開けるとそこは、赤い鳥居の祭壇がある部屋だった。一人の白衣姿の男が神社の祭壇に何か祈りの言葉を捧げている。
「我が同胞よ!今こそ魔界より来たれ!」
両端では二名の神主が盛んに大幣(おおぬさ)を振り祝詞をあげている。
その時、男が僕らに気付いて振り向いた。頭頂部は禿げ、耳の上に白髪が少し残ったその男は眼鏡越しに鋭い視線をよこした。
「むむっ!いったい何の用でここに足を踏み入れた?・・・貴様ら何者かに操られているな?何者だ?誰に連れてこられた?」
立て続けに質問を浴びせかける間にも、神主の祝詞は低く長く唱え続けられている。
「・・・口も利けぬか・・・まぁいい。いずれにしても儀式を見られたからには生かしては帰さん。」
男の姿が幻のように揺れる実体が薄くなると再び姿を現し始めた。その姿は、赤と白の二色の襟がついた緑色のマントの下に朱に染まった禍々しい色の衣を羽織っている。両手に六枚の護符を携え、僕らを鋭い視線で射貫く。黒眼は完全にひっくり返り、浅黒い肌に白目だけが妖しく輝いている。
「我はドウマン、陰陽師の力を見せてやろう。お前らごとき灰にしてやる。覚悟しろ!」
(ドウマン・・・。芦屋道満か・・・。あの有名な陰陽師”安倍晴明”の宿敵の・・・)
何が起こっているのか全く分からないが、目の前のドウマンからは激しい憎悪の感情をぶつけられている。何とか弁解しようと試みたが、すでに話ができるような状態ではない。
「マハラギ!」
ドウマンの口から何らかの呪が唱えられると僕らの体は激しい炎に包まれた。
(実体のない精神世界のはずなのになぜ・・・?)
そう思う間もなく、あっという間に全身を焼かれ、激しい苦痛とともに意識が途絶えた。
目覚めるとそこは、井の頭公園の入り口だった。あの老人が落胆したような顔で僕を眺めている。
「どうやら今のお前では無理のようじゃ・・・定めなら、奴と再びあいまみえようぞ。心してかかれ・・・」
そういうと老人の姿は雲をかき消すように消えていった。
あまりにも衝撃的な出来事だった。
不思議な老人の言葉、そして夢の中での話だが、ドウマンと名乗る超人から、炎で焼かれ殺されたのだ。夢とはいえ、あまりにもリアルな苦痛、そして肉が焦げる匂い・・・。
「た、助けて!!変な奴がついてくるの!怖い!!」
呆然と立ち尽くしていた僕は、鋭い悲鳴で我に返った。
一人の少女が妙にカクカクした動きの警察官に追われて、こちらに逃げてくる。
(あの動きは・・・、ゾンビ!)
何か武器になるものはないかと辺りを見渡したが、木切れ一つ落ちていない。
「助けを呼んでくるわ!」
少女はその場を僕に委ねると走り去っていった。
「アウ・・・ウウ・・・」
警察官はわけのわからないうめき声をあげている。そして両手をあげて襲いかかってきた。
僕は距離を取ろうとしたが妙に伸びた警察官の爪が僕の袖を掴んだ。
(ヤバい!)
と思ったその時、警察官は前のめりに倒れていった。
「ルイ、大丈夫!?・・・よかった無事のようね。」
目の前には、あのユリコが立っていた。
「バカね。ろくに訓練もしていないのに無理するもんじゃないわ。こんなところで死んでしまったら何にもならないじゃない。」
一撃であの化け物みたいな警察官を倒すなんて、ユリコは何者だろうか?
「とにかく、無事でよかったわ。どう?これで現実が理解できた?これから悪魔たちはどんどん出現してくるわ。ここも安全ではなくなるわよ。これを持ってて。これからあなたには必要なものよ。使い方は覚えてね。」
ユリコは拳銃を僕に渡した。
「いやいや、こんなもの持てないよ。」
僕はたぶん本物らしい拳銃をユリコに返そうとした。
「うふふ、平気よ。あなたなら、すぐに慣れるわ。いい?自分の身は自分で守るしかないわよ。とにかく持ってて。お願いよ。さあ、私についてきて。これからは私と一緒に行きましょう。」
「いや、それはできない。僕はこれから大学に戻って、ゼミの先生と面談しなければならない。それに、出会ったばかりの女性と結ばれるって意味がよく分からない。でも、助けてくれてありがとう。では、時間がないから、僕はここで失礼します。」
「そう・・・まだ状況がわかっていないようね。いいわ、実際にその目で確かめてみることね。でも約束して。無茶なマネはしないで慎重に行動して欲しいわ。いいわね?じゃあ、また会いましょう。」
そう言い残すとユリコは井の頭公園の方へ歩み去って行った。
どちらにしても、これはただ事ではない。
理屈では説明できない不可解な出来事ばかりだ。しかも、ゾンビまで出現するなんて、明らかに吉祥寺に何かが起きているようだ。
とにかく、大学に戻って水木先生の面談を受けなければ。そして、今回のことも、水木先生なら説明してくれそうな予感がした。
「どうやら今のお前では無理のようじゃ・・・定めなら、奴と再びあいまみえようぞ。心してかかれ・・・」
そういうと老人の姿は雲をかき消すように消えていった。
あまりにも衝撃的な出来事だった。
不思議な老人の言葉、そして夢の中での話だが、ドウマンと名乗る超人から、炎で焼かれ殺されたのだ。夢とはいえ、あまりにもリアルな苦痛、そして肉が焦げる匂い・・・。
「た、助けて!!変な奴がついてくるの!怖い!!」
呆然と立ち尽くしていた僕は、鋭い悲鳴で我に返った。
一人の少女が妙にカクカクした動きの警察官に追われて、こちらに逃げてくる。
(あの動きは・・・、ゾンビ!)
何か武器になるものはないかと辺りを見渡したが、木切れ一つ落ちていない。
「助けを呼んでくるわ!」
少女はその場を僕に委ねると走り去っていった。
「アウ・・・ウウ・・・」
警察官はわけのわからないうめき声をあげている。そして両手をあげて襲いかかってきた。
僕は距離を取ろうとしたが妙に伸びた警察官の爪が僕の袖を掴んだ。
(ヤバい!)
と思ったその時、警察官は前のめりに倒れていった。
「ルイ、大丈夫!?・・・よかった無事のようね。」
目の前には、あのユリコが立っていた。
「バカね。ろくに訓練もしていないのに無理するもんじゃないわ。こんなところで死んでしまったら何にもならないじゃない。」
一撃であの化け物みたいな警察官を倒すなんて、ユリコは何者だろうか?
「とにかく、無事でよかったわ。どう?これで現実が理解できた?これから悪魔たちはどんどん出現してくるわ。ここも安全ではなくなるわよ。これを持ってて。これからあなたには必要なものよ。使い方は覚えてね。」
ユリコは拳銃を僕に渡した。
「いやいや、こんなもの持てないよ。」
僕はたぶん本物らしい拳銃をユリコに返そうとした。
「うふふ、平気よ。あなたなら、すぐに慣れるわ。いい?自分の身は自分で守るしかないわよ。とにかく持ってて。お願いよ。さあ、私についてきて。これからは私と一緒に行きましょう。」
「いや、それはできない。僕はこれから大学に戻って、ゼミの先生と面談しなければならない。それに、出会ったばかりの女性と結ばれるって意味がよく分からない。でも、助けてくれてありがとう。では、時間がないから、僕はここで失礼します。」
「そう・・・まだ状況がわかっていないようね。いいわ、実際にその目で確かめてみることね。でも約束して。無茶なマネはしないで慎重に行動して欲しいわ。いいわね?じゃあ、また会いましょう。」
そう言い残すとユリコは井の頭公園の方へ歩み去って行った。
どちらにしても、これはただ事ではない。
理屈では説明できない不可解な出来事ばかりだ。しかも、ゾンビまで出現するなんて、明らかに吉祥寺に何かが起きているようだ。
とにかく、大学に戻って水木先生の面談を受けなければ。そして、今回のことも、水木先生なら説明してくれそうな予感がした。
光と闇の再戦02 [女神転生]
「なかなか進んでいるじゃない。質問したり文献読んだりと結構熱心ね。」
後ろから声をかけられて振り向くと同じゼミのシノが友だち数人と後ろのテーブルでレポートを書いている。
自己紹介が遅れたが、私こと神川ルイは東京吉祥寺在住二十一歳だ。W大へは吉祥寺からJRと地下鉄を乗り継いで通っている。
シノこと、高千穂シノは小学校からの幼馴染だ。自宅が隣ということもあり、親同士のつきあいも濃い。家族ぐるみで食事や旅行も定期的に行っている。となると二人はつきあっているのか、相思相愛なのかと勘ぐられるが、事実は全くそんなことはない。シノには別につきあっている男性がいるみたいだが、僕自身はそのことについて根堀り葉堀り聞くわけでもなく、シノも積極的に話すことはない。
僕に彼女は?と気になる方もいるかもしれないが、自分としては一人が気楽という状況だ。
「ルイさあ、今度みんなと一緒に食事いこうよ。意外とルイのこと気にしてる友だち多いからねぇ。」
「いいけど・・・よく言っといてくれよ。思ってるほど面白くないよってな・・・」
「暗っ!まあまあ、そう自分を卑下しなさんなって。しかしまぁ、あなたもイケメンではあるんだけど、水木先生みたいに爽やかにしてればもっと・・・まぁ、いっか・・・じゃあ、よろしくね。」
そういうとシノはグループの席に戻っていった。
うるさく面倒くさいところもあるが、自分が好きな研究ができるこの大学での生活は結構気に入ってる。
そんな日常が、徐々に変貌を遂げてきたのは、あの夢を見た頃からだった。
後ろから声をかけられて振り向くと同じゼミのシノが友だち数人と後ろのテーブルでレポートを書いている。
自己紹介が遅れたが、私こと神川ルイは東京吉祥寺在住二十一歳だ。W大へは吉祥寺からJRと地下鉄を乗り継いで通っている。
シノこと、高千穂シノは小学校からの幼馴染だ。自宅が隣ということもあり、親同士のつきあいも濃い。家族ぐるみで食事や旅行も定期的に行っている。となると二人はつきあっているのか、相思相愛なのかと勘ぐられるが、事実は全くそんなことはない。シノには別につきあっている男性がいるみたいだが、僕自身はそのことについて根堀り葉堀り聞くわけでもなく、シノも積極的に話すことはない。
僕に彼女は?と気になる方もいるかもしれないが、自分としては一人が気楽という状況だ。
「ルイさあ、今度みんなと一緒に食事いこうよ。意外とルイのこと気にしてる友だち多いからねぇ。」
「いいけど・・・よく言っといてくれよ。思ってるほど面白くないよってな・・・」
「暗っ!まあまあ、そう自分を卑下しなさんなって。しかしまぁ、あなたもイケメンではあるんだけど、水木先生みたいに爽やかにしてればもっと・・・まぁ、いっか・・・じゃあ、よろしくね。」
そういうとシノはグループの席に戻っていった。
うるさく面倒くさいところもあるが、自分が好きな研究ができるこの大学での生活は結構気に入ってる。
そんな日常が、徐々に変貌を遂げてきたのは、あの夢を見た頃からだった。
大学のゼミ室で悪魔学の参考文献に一通り目を通して自宅に帰ると、すでに時計は午後十時を過ぎていた。夏バテのせいか、あまり食欲はない。冷蔵庫を開け、扉のポケットに無造作に放り込まれたシリアルバーを一本取り出すと片手でかじりながら、ノートパソコンの電源を立ち上げメールチェックする。メーラーを立ち上げた途端、サーバーにストックされたメールが一気に流れ込んでくる。しかし、その内容はウイルス対策ソフトの更新期限の告知メールやパソコンの新製品の案内などたわいのないものばかりだ。
一通りメールリストに目を通すとパソコンをシャットダウンした。そして、シャワーを浴び部屋に戻る。部屋のエアコンは、二十五度に設定しているが、風の当たり方次第では肌寒い感じがする。しかし、真夏の夜は、エアコンの設定温度を一度上げるだけでも汗ばむ暑さで、また設定温度を一度下げる羽目になる。
タオルケットをかけベッドに腰かけながら、雑誌の通信販売の欄を何となく眺めていたが、それも退屈になってベッドに寝転がり目を閉じた。
粘つくような空気。エアコンの設定温度をまた下げなければ・・・。吉祥寺の夏は夜でも蒸し暑い。
ドドン、ドドン、ドドン、カン。
ドドン、ドドン、ドドン、カン…
ふと気付くと何かの音がする。
(何の音だろう)
その音はどこか遠くから聞こえてくるような気がするが、案外この近くに音源があるのかもしれない。ベッドでまどろみながら、一定の間隔で刻まれるかすかな音に耳を澄ませる。
ドドン、ドドン、ドドン、カン。
ドドン、ドドン、ドドン、カン…
その音は大きくなるわけでもなく、テンポを上げるわけでもなく、まるで心臓の鼓動のように一定のリズムを刻み込む。
そのうち、意識が音とリズムから離れ、猛烈な睡魔に襲われるといつの間にか眠りの世界に導かれていった。
一通りメールリストに目を通すとパソコンをシャットダウンした。そして、シャワーを浴び部屋に戻る。部屋のエアコンは、二十五度に設定しているが、風の当たり方次第では肌寒い感じがする。しかし、真夏の夜は、エアコンの設定温度を一度上げるだけでも汗ばむ暑さで、また設定温度を一度下げる羽目になる。
タオルケットをかけベッドに腰かけながら、雑誌の通信販売の欄を何となく眺めていたが、それも退屈になってベッドに寝転がり目を閉じた。
粘つくような空気。エアコンの設定温度をまた下げなければ・・・。吉祥寺の夏は夜でも蒸し暑い。
ドドン、ドドン、ドドン、カン。
ドドン、ドドン、ドドン、カン…
ふと気付くと何かの音がする。
(何の音だろう)
その音はどこか遠くから聞こえてくるような気がするが、案外この近くに音源があるのかもしれない。ベッドでまどろみながら、一定の間隔で刻まれるかすかな音に耳を澄ませる。
ドドン、ドドン、ドドン、カン。
ドドン、ドドン、ドドン、カン…
その音は大きくなるわけでもなく、テンポを上げるわけでもなく、まるで心臓の鼓動のように一定のリズムを刻み込む。
そのうち、意識が音とリズムから離れ、猛烈な睡魔に襲われるといつの間にか眠りの世界に導かれていった。
こんな夢を見た。
殺風景な通路をを一人で歩いている。
全ての壁はぼやけた色で赤でもなく白でもない、かといってシースルーの透けた感じでもなく不思議なコントラストが続いている。通路というより迷路と言った方が適切な表現かもしれない。
とにかく、そんな通路を道なりに一人歩いている。今のところ、入り口も出口もなく、ただあてどなく自分が向いている方向に足を進めるだけという状態だ。やがて、進行方向とは別に左右に道がある分岐点へと差し掛かった。分岐点では右にも左にも行くことができるが、何かに導かれるように足が勝手に前へ前へと進んでいく。
と、突然大きな石版がシャッターが降りるように目の前を遮断した。 石版の中央には剃髪の男の顔が彫られている。
その男は、重々しい声で口を開いた。
「ここへ導かれし”神川ルイ”よ。汝は秘められし力がある”盤上を決定せしめる者”だ。ここを通りし汝を待ち受けるは、光と共に選ばれし民の”秩序と光”か己が力を頼る者同士が相争う”混沌と闇”か・・・この世の中の光と闇、秩序と混沌のせめぎ合いをあたかもオセロの駒のように、操作するのだ。」
「オセロ・・・どこにそんな物が・・・?」
「オセロの駒はこれから手に入るであろう。そして盤上はこの世界。対戦相手はもう一人の操作する者、いずれ、そなたと相まみえることとなろう。勝っても負けても、この世の摂理はそなたらの戦いの結果に委ねられている。そして、戦いは単に敵を打ち負かすだけが戦いではない。一つ一つの行動には意味があるのだ。心して行動せよ。”秩序と光””混沌と闇”・・・汝の天秤にこの2つを乗せこぼれ落とさぬよう歩むがよい。」
石版の男の顔が激しくフラッシュし、大きく左右に石版が割れ、進む先の道を示した。
またしばらく進むと、青いローブを纏った男が十字架に張り付けられた男を指し示している。
「さあ見てみなさい。これは神に捧げられし魂・・・名を天城ヒカルといいます。そろそろ目を覚ますことでしょう。彼にはまだ隠れた力があります。貴女が持つ最大の駒の一つに成長する可能性があります。共に歩み、その力を開花させるとよいでしょう。」
ローブの男はそう言い残すと姿を消した。と同時に十字架に張り付けられた男の姿が徐々に実体化し言葉を発した。
「ここはどこだろう・・・僕は何かを成し遂げるはずだったのに・・・君が助けてくれたんですね。君といれば答えが見つかるかも・・・一緒に連れて行ってください。」
「ああ、僕もここに来たばかりでよく分からないけど、よければ一緒に行きましょうか。」
天城ヒカルが行動を共にするようになった。
殺風景な通路をを一人で歩いている。
全ての壁はぼやけた色で赤でもなく白でもない、かといってシースルーの透けた感じでもなく不思議なコントラストが続いている。通路というより迷路と言った方が適切な表現かもしれない。
とにかく、そんな通路を道なりに一人歩いている。今のところ、入り口も出口もなく、ただあてどなく自分が向いている方向に足を進めるだけという状態だ。やがて、進行方向とは別に左右に道がある分岐点へと差し掛かった。分岐点では右にも左にも行くことができるが、何かに導かれるように足が勝手に前へ前へと進んでいく。
と、突然大きな石版がシャッターが降りるように目の前を遮断した。 石版の中央には剃髪の男の顔が彫られている。
その男は、重々しい声で口を開いた。
「ここへ導かれし”神川ルイ”よ。汝は秘められし力がある”盤上を決定せしめる者”だ。ここを通りし汝を待ち受けるは、光と共に選ばれし民の”秩序と光”か己が力を頼る者同士が相争う”混沌と闇”か・・・この世の中の光と闇、秩序と混沌のせめぎ合いをあたかもオセロの駒のように、操作するのだ。」
「オセロ・・・どこにそんな物が・・・?」
「オセロの駒はこれから手に入るであろう。そして盤上はこの世界。対戦相手はもう一人の操作する者、いずれ、そなたと相まみえることとなろう。勝っても負けても、この世の摂理はそなたらの戦いの結果に委ねられている。そして、戦いは単に敵を打ち負かすだけが戦いではない。一つ一つの行動には意味があるのだ。心して行動せよ。”秩序と光””混沌と闇”・・・汝の天秤にこの2つを乗せこぼれ落とさぬよう歩むがよい。」
石版の男の顔が激しくフラッシュし、大きく左右に石版が割れ、進む先の道を示した。
またしばらく進むと、青いローブを纏った男が十字架に張り付けられた男を指し示している。
「さあ見てみなさい。これは神に捧げられし魂・・・名を天城ヒカルといいます。そろそろ目を覚ますことでしょう。彼にはまだ隠れた力があります。貴女が持つ最大の駒の一つに成長する可能性があります。共に歩み、その力を開花させるとよいでしょう。」
ローブの男はそう言い残すと姿を消した。と同時に十字架に張り付けられた男の姿が徐々に実体化し言葉を発した。
「ここはどこだろう・・・僕は何かを成し遂げるはずだったのに・・・君が助けてくれたんですね。君といれば答えが見つかるかも・・・一緒に連れて行ってください。」
「ああ、僕もここに来たばかりでよく分からないけど、よければ一緒に行きましょうか。」
天城ヒカルが行動を共にするようになった。
さらに通路を前に進む。
すると今度は一体の魔族が倒れた男の上に腰かけている。
「フン、来たか・・・これを見ろ。これは力を求める乾いた魂だ。名を御所タケルという。コイツにはまだまだ力がある。うまく育てば、お前が持つ最大の駒の一つになる可能性はある。共に連れて行き、その力を目覚めさせるがいい。」
そう言うと魔族は宙へ舞い上がりかき消すように消えていった。そして、魔族に組み敷かれていた男が徐々に実体化し声を発した。
「・・・なぜ俺を起こした!せっかくいい夢を見ていたのに・・・クソッ・・・とにかくここから連れ出してもらうぜ。」
「なかなか荒々しい奴だな。一緒に来たければ来るといい。」
御所タケルが行動を共にするようになった。
すると今度は一体の魔族が倒れた男の上に腰かけている。
「フン、来たか・・・これを見ろ。これは力を求める乾いた魂だ。名を御所タケルという。コイツにはまだまだ力がある。うまく育てば、お前が持つ最大の駒の一つになる可能性はある。共に連れて行き、その力を目覚めさせるがいい。」
そう言うと魔族は宙へ舞い上がりかき消すように消えていった。そして、魔族に組み敷かれていた男が徐々に実体化し声を発した。
「・・・なぜ俺を起こした!せっかくいい夢を見ていたのに・・・クソッ・・・とにかくここから連れ出してもらうぜ。」
「なかなか荒々しい奴だな。一緒に来たければ来るといい。」
御所タケルが行動を共にするようになった。
さらに通路を奥に進む。そこには大きな扉があり行き止まりのようだ。
引き返す選択肢は全く考えもせず、扉を押し開ける。
不思議なことに部屋の中は、岩場に囲まれた泉だった。そして、女が泉の水を浴びている・・・。
黒髪の女が振り向いて、言葉を発した。
「・・・誰?そこにいるのは?あら・・・あなたは神川ルイね・・・私の名はユリコ。雨宮ユリコよ。あなたのこと、ずっと待っていたのよ・・・永遠のパートナーとしてね・・・」
泉の水で濡れた髪が白い肌にまとわりつき、艶めかしい女がこちらを見つめ微笑んでいる。
そこで夢は途絶えた。
引き返す選択肢は全く考えもせず、扉を押し開ける。
不思議なことに部屋の中は、岩場に囲まれた泉だった。そして、女が泉の水を浴びている・・・。
黒髪の女が振り向いて、言葉を発した。
「・・・誰?そこにいるのは?あら・・・あなたは神川ルイね・・・私の名はユリコ。雨宮ユリコよ。あなたのこと、ずっと待っていたのよ・・・永遠のパートナーとしてね・・・」
泉の水で濡れた髪が白い肌にまとわりつき、艶めかしい女がこちらを見つめ微笑んでいる。
そこで夢は途絶えた。
朝7時。洗面を済ませ、大学に行く準備をする。コーヒーをすすり、パンをかじりながら昨夜の夢を反芻する。
十字架に張り付けられた天城ヒカルと魔族に組み敷かれた御所タケル。神と悪魔の暗示だろうか・・・?そして、泉で水浴びをしていた女性・・・。僕のことを永遠のパートナーと言っていた。もちろん、心当たりは全くない。
しかし、夢の前半は今ゼミで勉強している悪魔学に関係があるようにも思える。
夢はしばらくすると記憶から消えるという。しかし、この夢は何だか意味があるような気がしたので、スマートフォンのメモ機能を使って気になることだけは記録に残しておくことにした。
大学に行く前にパソコンを起動し、メールチェックする。すると一件の受信メールがあった。悪魔学の講義をしてもらっている水木教授からだ。開封してみると、事務連絡と記載してある。
「本日の講義は、講堂での全体講義ではなく、ゼミ生だけを対象に個別の面談とします。それぞれに時間設定していますので、別添の表を参照しゼミ室に来てください。その際、悪魔と神、人間との共存について協議しますので各自考えをまとめておくこと。そして、質問も整理しておいてください。水木。」
別添資料を確認する。すると神川ルイの時間は最終のコマ、午後五時四十五分からとなっていた。
午後の講義が夕方近くの個人面談になったので、昼食後の時間に余裕ができた。特に用事があるわけではなかったが、久しぶりに吉祥寺のアーケードへ行っての知り合いのマスターが経営しているカフェで夕方までの時間を過ごすことにした。
十字架に張り付けられた天城ヒカルと魔族に組み敷かれた御所タケル。神と悪魔の暗示だろうか・・・?そして、泉で水浴びをしていた女性・・・。僕のことを永遠のパートナーと言っていた。もちろん、心当たりは全くない。
しかし、夢の前半は今ゼミで勉強している悪魔学に関係があるようにも思える。
夢はしばらくすると記憶から消えるという。しかし、この夢は何だか意味があるような気がしたので、スマートフォンのメモ機能を使って気になることだけは記録に残しておくことにした。
大学に行く前にパソコンを起動し、メールチェックする。すると一件の受信メールがあった。悪魔学の講義をしてもらっている水木教授からだ。開封してみると、事務連絡と記載してある。
「本日の講義は、講堂での全体講義ではなく、ゼミ生だけを対象に個別の面談とします。それぞれに時間設定していますので、別添の表を参照しゼミ室に来てください。その際、悪魔と神、人間との共存について協議しますので各自考えをまとめておくこと。そして、質問も整理しておいてください。水木。」
別添資料を確認する。すると神川ルイの時間は最終のコマ、午後五時四十五分からとなっていた。
午後の講義が夕方近くの個人面談になったので、昼食後の時間に余裕ができた。特に用事があるわけではなかったが、久しぶりに吉祥寺のアーケードへ行っての知り合いのマスターが経営しているカフェで夕方までの時間を過ごすことにした。
光と闇の再戦01 [女神転生]
昼間の明るさも太陽が西に傾くにつれ、その輝かしさは陰り始め、日没からは徐々に薄暗くなる薄暮、いわゆる魔物が跳梁跋扈し始める逢魔が時を迎える。やがて、月も出ない夜には漆黒の闇が町を覆う。
そして、また東の水平線に太陽が出る頃には、闇はなりを潜め輝かしい希望の光が世界を覆う。そう光と闇は常にせめぎ合い、絶え間のない連続したコントラストを世界にもたらすのだ。
そして、また東の水平線に太陽が出る頃には、闇はなりを潜め輝かしい希望の光が世界を覆う。そう光と闇は常にせめぎ合い、絶え間のない連続したコントラストを世界にもたらすのだ。
この世の秩序と混沌を比べれば、明らかに混沌が強くはびこる世界であることは否めない。人間の本性に関する考察は古今東西行われてきた。その中で「人間の本性は基本的に善である」とする考え、つまり性善説とそれに相反する考え、「人の本性は悪であり、それが善になるのは人間の意思で努力するからである」とする性悪説とが主張としてぶつかり合っている。
世の中に悪がはびこり混沌としている事実から考えると、性善説を取るのであれば善なる人間が悪に落ち、混沌の世界に身を委ねる悪への誘惑があるのではないか。また、性悪説を取るのであれば、人が善なるものに変容するための努力を怠るような堕落や誘惑がこの世に満ち溢れているのではないか。
誰もが生きているかぎりは幸せを追求するのが道理だ。しかし、幸せの定義もまちまちで、すっぱり白か黒かというようにはならない。そしてこの世界で蠢く蟻のような人の世界は、蟻の目線だけでは見えない何か高位の者が鳥の目線で影響を与えているのではないか。そう考えると人間の営みは高位な者同士の対立によって左右されていることになる。
例えば宗教における天使と悪魔の戦いに象徴される光と闇の対立。それこそがこの世界の秩序と混沌のバランスを形作っていると考えた方が納得できる。単なるパワーバランスだけでなく、天使が闇に落ち悪魔化した堕天使、逆に悪魔が神格化され神のごとくあがめられる昇神のように秩序と混沌、光と闇はまるでオセロのコマのように裏返るものでもある。
そしてまた、高位の者に影響を与えているのが、無数の蟻のごとき小さな人間なのである。
秩序から混沌、光から闇、その二次元のパラメーターに境界はなく、常に2つの軸の中で変動していて、その変容は信仰によるものが大きい。数は力、信仰の強さでその勢力図は変化するのである。
現在、秩序と光を教義とするメシア教、混沌と闇を教義とするガイア教が世界を二分している。犯罪や暴力がは蔓延り、貧困に悩む人々が溢れるこの世界は、恐らくガイア教の勢力が強く、それに反発するメシア教との対立があちこちで起こっているという現状がある。
誰もが生きているかぎりは幸せを追求するのが道理だ。しかし、幸せの定義もまちまちで、すっぱり白か黒かというようにはならない。そしてこの世界で蠢く蟻のような人の世界は、蟻の目線だけでは見えない何か高位の者が鳥の目線で影響を与えているのではないか。そう考えると人間の営みは高位な者同士の対立によって左右されていることになる。
例えば宗教における天使と悪魔の戦いに象徴される光と闇の対立。それこそがこの世界の秩序と混沌のバランスを形作っていると考えた方が納得できる。単なるパワーバランスだけでなく、天使が闇に落ち悪魔化した堕天使、逆に悪魔が神格化され神のごとくあがめられる昇神のように秩序と混沌、光と闇はまるでオセロのコマのように裏返るものでもある。
そしてまた、高位の者に影響を与えているのが、無数の蟻のごとき小さな人間なのである。
秩序から混沌、光から闇、その二次元のパラメーターに境界はなく、常に2つの軸の中で変動していて、その変容は信仰によるものが大きい。数は力、信仰の強さでその勢力図は変化するのである。
現在、秩序と光を教義とするメシア教、混沌と闇を教義とするガイア教が世界を二分している。犯罪や暴力がは蔓延り、貧困に悩む人々が溢れるこの世界は、恐らくガイア教の勢力が強く、それに反発するメシア教との対立があちこちで起こっているという現状がある。
そして、この様相を色濃く表しているところが日本の首都、東京である。
「サタンはもともと”敵対者”を意味するヘブライ語に由来している。悪魔の代表格とされるサタンは、旧約聖書においては人間を告発し罰を与える天使であり、神の僕の側であったわけだ。それが、ダンテの”神曲”地獄編では地獄の最下層にいる悪魔の大王として描かれているのだ。ここで何か質問は?」
東京にあるW大学の人文学部の授業である宗教の授業の一環で「悪魔学」が取り入れられている。悪魔学については、日本で第一人者の水木教授の講義が人気である。水木教授は、若干三十代前半で教授職を努めるほどの優れた知識と研究者としての実践力を持っている。
「一ついいですか?」
最前列に座っていた一人の若者が手を上げた。
「神の僕の天使ということであれば、光に包まれ幸福で高貴なイメージがあります。それに対して地獄は罪人が落ちる恐ろしい場所という認識がありますが、なぜそんな対極の場所にサタンが描かれているのですか?」
「神川ルイくんだったかな・・・ふむ。最も大事なところだ。良い質問だ。サタンは神に仕える御使いであったということは、すでに述べたな。その後、サタンは罪を犯したのだ。何をしたのか。それは・・・神への反抗。神殺しをしてしまったのだと言われている。神罰に対して不満を持つ者の声に耳を傾けすぎ、その者たちに祭り上げられて先頭に立ったという話もあるし、サタン自身が神になりたかったとという野心を持っていたという話もある。これを神は許さず、サタンを地獄へと追放したという事だな。まあ、はっきりしたことについては、キリスト教のみならずユダヤ教、イスラム教についても研究し、論拠を固める必要がある。時間が来たので、今日の講義はここまでだ。」
「ありがとうございます。」
「あ、そうそう。サタンに興味があるようなら、ヨハネの福音書を読んでみるといい。そこには、サタンの本質が描かれている。少し抽象的で分かりにくいが、サタンが神に敵対したという視点で読むとわかりやすいかもしれん。これが、その部分のコピーだ。君にあげよう。」
水木教授は、質問をした最前列の若者にヨハネの福音書の一部をコピーした資料を渡した。
東京にあるW大学の人文学部の授業である宗教の授業の一環で「悪魔学」が取り入れられている。悪魔学については、日本で第一人者の水木教授の講義が人気である。水木教授は、若干三十代前半で教授職を努めるほどの優れた知識と研究者としての実践力を持っている。
「一ついいですか?」
最前列に座っていた一人の若者が手を上げた。
「神の僕の天使ということであれば、光に包まれ幸福で高貴なイメージがあります。それに対して地獄は罪人が落ちる恐ろしい場所という認識がありますが、なぜそんな対極の場所にサタンが描かれているのですか?」
「神川ルイくんだったかな・・・ふむ。最も大事なところだ。良い質問だ。サタンは神に仕える御使いであったということは、すでに述べたな。その後、サタンは罪を犯したのだ。何をしたのか。それは・・・神への反抗。神殺しをしてしまったのだと言われている。神罰に対して不満を持つ者の声に耳を傾けすぎ、その者たちに祭り上げられて先頭に立ったという話もあるし、サタン自身が神になりたかったとという野心を持っていたという話もある。これを神は許さず、サタンを地獄へと追放したという事だな。まあ、はっきりしたことについては、キリスト教のみならずユダヤ教、イスラム教についても研究し、論拠を固める必要がある。時間が来たので、今日の講義はここまでだ。」
「ありがとうございます。」
「あ、そうそう。サタンに興味があるようなら、ヨハネの福音書を読んでみるといい。そこには、サタンの本質が描かれている。少し抽象的で分かりにくいが、サタンが神に敵対したという視点で読むとわかりやすいかもしれん。これが、その部分のコピーだ。君にあげよう。」
水木教授は、質問をした最前列の若者にヨハネの福音書の一部をコピーした資料を渡した。
「ルイくん、水木先生からコピーもらっていいなぁ。私にもコピーさせてー。」
「ほんと、水木先生ってかっこいいよね。」
講義を終えたとたん、女子たちが僕のところにやってくる。別におくがモテるわけじゃない。水木先生のコピー狙いだ。女子たちにとって、水木先生はイケメンのカリスマ教授で、人気は絶大なのだ。
喧騒が落ち着いてから、僕は図書館に行ってコピーを読む。
「ほんと、水木先生ってかっこいいよね。」
講義を終えたとたん、女子たちが僕のところにやってくる。別におくがモテるわけじゃない。水木先生のコピー狙いだ。女子たちにとって、水木先生はイケメンのカリスマ教授で、人気は絶大なのだ。
喧騒が落ち着いてから、僕は図書館に行ってコピーを読む。
【ヨハネの福音書八章四十二節~四十七節】イエスは彼らに言われた、「神があなたがたの父であるならば、あなたがたは私を愛するはずである。わたしは神から出でた者、また神から来ている者であるからだ。わたしは自分からきたのではなく、神からつかわされたのである。どうしてあなたがたは、わたしの話すことがわからないのか。あなたがたが、わたしの言葉を悟ることができないからである。あなたがたは自分の父、すなわち、サタンから出てきた者であって、その父の欲望どおりを行おうと思っている。彼は初めから、人殺しであって、真理に立つ者ではない。彼のうちには真理がないからである。彼が偽りを言うとき、いつも自分の本音を吐いているのである。彼は偽り者であり、偽りの父であるからだ。しかし、わたしが真理を語ってるので、あなたがたはわたしを信じようとしない。あなたがたのうち、だれがわたしに罪があると責めるうるのか。わたしは真理を語っているのに、なぜあなたがたは、わたしを信じないのか。神からきた者は神の言葉に聞き従うが、あなたがたが聞き従わないのは神からきた者ではないからである。
この資料では、人々へ布教される際にすでにサタンは、人殺しであり真理にそむくものとして描かれているわけだ。光の象徴である天使側が激しくサタンを敵対視し、かつて天使だったサタンの信仰を貶めようとする意図があるのだろう。地獄に落ち混沌と闇の側へとリバースしたサタンへの信仰が集まれば、それだけ秩序側の信仰が弱まってしまうということか。
ヨハネの福音書から派生して、ヨハネの黙示録には「ミカエルとその使いたち」VS「サタンとその使いたち」の戦いが起きたとの記述がある。サタンはミカエルに勝てず、天に居場所がなくなり使いたちと共に地に投げ落とされる。サタンは激怒中なため、地と海にとっては災いとなると述べられている。
ヨハネの福音書から派生して、ヨハネの黙示録には「ミカエルとその使いたち」VS「サタンとその使いたち」の戦いが起きたとの記述がある。サタンはミカエルに勝てず、天に居場所がなくなり使いたちと共に地に投げ落とされる。サタンは激怒中なため、地と海にとっては災いとなると述べられている。
【ヨハネの黙示録二十章第七節~十節】
千年の期間が終わると、サタンはその獄から開放される。そして、出て行き、地の四方にいる諸国民、すなわちゴグ、マゴクを惑わし、彼らを戦いのために招集する。その数は、海の砂のように多い。彼らは地上の広いところに上ってきて、聖徒たちの陣営と愛されていた都とを包囲しいた。すると、天から火が下ってきて彼らを焼き尽くした。そして、彼らを惑わした悪魔は、火と硫黄との池に投げ込まれた。そこには、獣もにせ預言者もいて、彼らは世々限りなく日夜、苦しめられるのである。
サタンは、いったん光の軍勢に敗れたけれども、千年の時を経て再戦したということだ。キリスト生誕が西暦で表されていることから考えると、西暦でいうところの千年単位で光と闇の戦いが繰り広げられていることになる。
実際のところ、西暦千十八年頃、ヨーロッパでは十字軍の遠征が行われている。聖地エルサレムをめぐって、神の名のもと激しい戦いが行われたのだ。十字軍の背後には神の子イエス・キリストが開いたキリスト教があり、相対する中東トルコ軍の背後には、人であり予言者であるムハマンドが開いたイスラム教がある。キリスト教の神の軍勢がその威光を示すために、キリスト教の教義に相反するイスラムを悪と見なした十字軍の遠征は宗教の名を借りた大いなる存在の代理戦争であったのではないか。
西暦二千二十年。聖地エルサレムはキリスト教の勢力が強いアメリカの同盟国であるイスラエルにより実効支配され、イスラムの国とは現在でも対立している。これまでも中東の国では、エルサレムをめぐる小競り合いが行われているが、最初の十字軍の遠征からほぼ千年が経過した二十一世紀、サタンによる二回目の再戦もそろそろかもしれない。
実際のところ、西暦千十八年頃、ヨーロッパでは十字軍の遠征が行われている。聖地エルサレムをめぐって、神の名のもと激しい戦いが行われたのだ。十字軍の背後には神の子イエス・キリストが開いたキリスト教があり、相対する中東トルコ軍の背後には、人であり予言者であるムハマンドが開いたイスラム教がある。キリスト教の神の軍勢がその威光を示すために、キリスト教の教義に相反するイスラムを悪と見なした十字軍の遠征は宗教の名を借りた大いなる存在の代理戦争であったのではないか。
西暦二千二十年。聖地エルサレムはキリスト教の勢力が強いアメリカの同盟国であるイスラエルにより実効支配され、イスラムの国とは現在でも対立している。これまでも中東の国では、エルサレムをめぐる小競り合いが行われているが、最初の十字軍の遠征からほぼ千年が経過した二十一世紀、サタンによる二回目の再戦もそろそろかもしれない。